靴のクレームの実例と品質性能値 ヒールの破損 その1 東京都皮革技術センター 台東支所 中島 健

●ヒールの破損 その1

 最近婦人靴ヒールの傾向は極度に細く高くなっています。極端に細く高いことを要求されれば強度が問題となり、金属などの強力な材料が必要になり、取り付け時間やコストの面で技術的な限界が生じてきます。
 今のところの高さ細さのヒールではプラスチック(ABS 樹脂)に焼き入れした鋼のパイプで補強して強度を保持して使われています。今日のヒールではヒールがあまりにも細いため、必要な強度を補強パイプが一手に担っているといえます。レントゲン写真1 の折れたヒールは補強のパイプが見えていて、まさにそのこと示しています。

レントゲン写真1 補強芯の周りの気泡 写真2 疲労破壊したヒール

 

 後方より負荷がかかったことと、歩行により後部より小さな力で繰り返し衝撃されておきた疲労破壊であることが判ります。
 ヒールに折れる力の加わり方はヒールの高さ、形状(セットバック等)、歩行の状態等で決まりますが、試験では代表的な負荷を与えます。ISO では疲労破壊に対して図1 のごとくヒールを機械に固定して先端近くを0.68ジュール(約0.44kg を15cm 落下させる)のエネルギーで連続して打ち続け、破壊するまでの回数を測定します。
 ヒールが折れるもう一つの力は、階段等で足を踏み外したときに生じる大きな衝撃力があります。

図1疲労試験機の概略図

 

 衝撃試験では疲労試験と同じ位置に0.68ジュールずつ増加させた力で衝撃を与えていきます。2 回目は1.36 ジュール、3 回目は2.04ジュール、4 回目は2.72 ジュールと順次大きな力に増やしていき、破壊したときの最大エネルギーを読み取ります。
 T ノートで示している基準値は、婦人タウンシューズ(テクニカルノートではスポーツ靴、紳士タウンシューズ、子供校内履き、カジュアル、寒冷地用、婦人タウンシューズ、ファッション用、幼児靴、室内履きの目的別に9 種類について基準値を決めている)では疲労試験では14000 回以上、衝撃試験では5 ジュール以上で破壊が生じないことと示されています。
 

写真3 衝撃力で破壊したヒール

 筆者の経験ではこの程度の性能値では苦情が発生したことがあり、あまりにも低すぎる設定だと考えています。また、ヒールの高さに応じて設定すべきでしょう。
 自社基準を設けているわが国のメーカ、問屋、販売店では疲労試験では20000 回以上、衝撃試験で8 ジュール、10 ジュール以上と条件を定めている会社が多いことを申し添えます。
 この基準値を達成させるためには、補強芯の材料選択、プラスチック材料の選択や成型時の作業管理、検査の徹底が必要で、多くのメーカが努力・改善しているところで国内製品の事故は激減しています。

中島 健(なかじま けん)

・1939 年 東京都生まれ
・1962 年 スタンダード靴(株)入社
・1972 年 東京都立産業労働会館 技術指導研究員
・2000 年 東京都立皮革技術センター台東支所
      専門技術指導員
          現在に至る。

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