靴が支える快適歩行Vol.5
この講演は、シューフィッター補習講座(東京)2003年10月23日を収録したものです。

靴合わせに最低限必要な足の計測

 ワイシャツ売り場に行くと、間違いなく首回りと袖丈を測ってくれます。
その二つの寸法が書いてあるワイシャツは非常に快適です。
ところがLとだけ表示されているものでは、首回りは楽なんですが、袖が長くなってしまうという状況になります。
バンドをしたりとか方法はありますがそれは非常に不快ですよね。
やっぱり靴も、そういう意味ではきちんと足のサイズを測ることが最低限必要です。
靴の場合、足長と足囲の二つだけでは足りないわけで、木型から靴をつくっていらっしゃる方はそれ以外の項目も当然必要なはずですが、現状は最低限のこのこつさえ小売りの段階では守られていないと思います。

 どうしても狭い靴が悪いイメージを起こしているのは纏足の影響だと思うんです。
母趾は真っすぐにしているんですが、ほかの4本の趾は折って、埋め込んで包帯でぐるぐる巻きにしています。
おもしろいといったらちょっと語弊がありますが、母趾は残すんです。
母趾が使えることで、立った状態での最低限の機能は確保されるのです。
よく見ると纏足(てんそく)の状態はヒールものを履いていることと同じなんです。

 もし纏足、狭い靴が良くないんだとしたら、自分のお后様をわざわざ纏足にしません。
早く死んじゃうというか、それに付帯するものがあれば別なんでしょうが、そんなものは全くないです。
別に短命だったということもない。
ある目的があって、お尻の筋肉だけを強化したいという目的のために、実は小さい足で歩くのを目的に考えられたということがあります。
いろいろな説があります。
ナイトライフのことだとか、あるいは走れないようにするという話があったんですが、動乱の最中に纏足の人が走っている姿を見たというのがあるので、走れないわけでもないということです。
纏足をやりましょうということじゃありません。
いわんとしていることは、狭いのを履きましょうよというのではなくて、足にフィットした方がいいということです。

3Aの人はいっぱいいるが3Eのほとんどいない

 生命工学研究所の行ったデータは既に皆さんご存じだと思いますけれども、3E、4Eは非常に少ないんです。
僕は患者さんの足を測っていて3Aの人はいっぱいいますが3Eの人はほとんどいません。
ですから、売られている靴が広ければ、当然皆さんのテクニックがどんなに上がっても、つくる段階で違っていたらダメということになります。
消費者選考の一つの基準として、女性はゆったりめを好むという特徴もありますから、「お客さん、何センチですか」という問いかけではなくて、測ってみることは絶対必要だと思うんです。

 足の長さが違う場合に、右左別々に売るという考え方もあります。
患者さんの足を測ってきてわかったことは、足の長さが違うという場合の多くは、左右のアーチが同じ状態にないということです。
長い方が、もうアーチが崩れてきているという考え方をしたら、このアーチをサポートする何かをしてあげれば、それだけでも長さが同じになります。
成長期に骨折をしたとか栄養障害があったとか、何らかのトラブルあるいは異常がある、そういった場合には確実に長さが違います。
でもそれ以外の方は、測った段階で何ミリか違っていても基本的にきちんとサポートしていくと左右同じ長さになります。

正しいフィッティングで変形した足が元に戻る

 意外に多いのが、捨て寸まで足を入れて履いている方です。
その要因としては、ボールガースが細いので足が前に滑ってしまうようです。
ただ実際にAの人がもし3Eの靴を履いていたらぶかぶかしちゃうので、フィットさせるためにどうしてもそういう方策をとっているのかも知れませんけれども、このことは外反母趾の一つの要因になっているかなと思います。

 大事な観点は、足囲じゃなくて足幅ではかってしまうと、開張足の状態で測ってしまうので過大評価してしまう。
プレーンなタイプの靴の場合にはちょっと望めないんですけれども、紐で結ぶ靴であれば、足囲で測ってあげた方が正確に計測できると思います。
ただ店頭でそれをやろうと思うとなかなか難しいので、足幅で代用しているのではないでしょうか。

 足囲でなくて足幅で靴を選んで買って3Eの靴を履いていた方がいます。
M1/5角という開張足の指標をみると30°すごい状態ですよね。
ところが正しく計測した上で、Eのウイズの靴を履いてもらうと、M1/5角は正常の範疇の25°以下に入ってくるわけです。
しかもこの状況で全然不快感もありません。
締め過ぎちゃうと、纏足は嫌だよ、むくんだときに対応できないから嫌だよというふうに思いがちですが、そうではないんです。
きちんとサポートしてあげる方が、足にとってはむしろ快適だと私は思っております。
ちなみに私は25.5の靴を履いていましたが、現在は24センチの靴が履ける状況にまで足が小さくなっています。
「ええ、何?」と思うかも知れませんが、アーチが高くなってくれば足の長さは短くなる。
これは簡単なことです。
逆に、広いのがいい、広いのがいいとどんどんやっていくと、どんどん足が変形してしまうということにもなるわけです。
さらに、中足骨パッドという膨らみがあります。
ある主義の考えを持つ一部の人たちでは、設置位置が通常より前にきている場合があるんです。
そうすると、開張足を解消する目的で設置したはずのものが母趾内転筋という筋肉を弱体化させてしまって、さらに開張足を助長させることにもなるのです。
足の断面図をみても、初診できたときには、船底状の足だったわけですが、きちんとサポートしてインソールを入れた1年後は横アーチができてきました。



これは、MRIで寝て撮影してますから靴もインソールもなしの状態なんです。
ですから広がっているものに合わせるのではなくて、本来ある姿というのを考慮した上でフィッティングを考える。
元々はもっと細い足だが、今はこうですよというようないい方をして測ってフィッティングを考えてあけないといけない。
今ある状態に合わせるのか、それとももう少し良い状態を目指すのかといったところを意識しながらやらなくてはいけないのかなと思います。

(続く)


■バックナンバー