さて、甲の大事さを説明する場合には、セロハンテープ1本を甲の部分に巻くだけでいいんです。オープンな靴がどうしてもいいという場合に、1本セロハンテープを巻くと楽なんですね。
ひどい人は、「このまま帰っていいですか」という人もいるんですけど、全然見え方が違います。扁平の状態というのは、楔状骨・立方骨らが下がっている状態なのです。
内側(第1)楔状骨は内側の縦アーチのピークですから、アーチが下がっている状態というのはこの骨も下がってきます、楔状骨は文字通り楔形の骨ですから、その他の楔状骨も下がっていくわけです。これらの骨には趾の骨がついてきますから、これらの骨が下がって広がっていくということは、開張足になっていくということになります。この二つをいっぺんに解消する方法は、セロハンテープなんです。
フェラガモ賛美をするつもりはありませんが、フェラガモの自伝『夢の靴職人』の中に幾つか靴選びの参考になるポイントがあります。
外反母趾になるのは「実はアーチが崩れているんですよ」というのを一番に上げています。
このアーチが下がってくると、まず疲れやすいというのが大事なサインだそうです。
それから、実際に「魚の目、タコができたときにパッドを当てたりして対応するのは愚かなことで、まずきちんとフィットさせなくてはいけない」と言ってます。
今日は細いというか、合わせる方がいいよということをいってきたんですが、フェラガモはもっと進んでいまして、「いつもAを履いているなら2A、3Aにしてみなさい」、細いのを履けといっているんです。
細ければ細いほど、自分のフィッティングにいいことにつながるんだということを、今の日本の発想からいえばかなり危険なことを言っています。
同じ骨なのに、受け皿が大きいだけで骨はこんなになってしまうということです。
「フィットするとはどういうことか知る前のことで、今やあなたは店員より靴のフィッティングにずっと詳しくなっている」という非常に危険な本なんです(笑)。
「土踏まずの支えが感じられないのなら、手の指で母趾のつけ根の東から土踏まずの一番高いところまで触るいといい、しっかりとしているはずだ」。
ロングカウンターをつけなさいということをいっているのがここでわかったんです。
『夢の靴職人』という本に書いてあったということからいうと、細い靴もひとつ考えなくちやいけないということと、ロングカウンターというのも一ついるのかなということが、この本の中に書いてありました。ただ、ロングカウンターとも書いていませんし、月型芯を伸ばせとも書いていません。
これもフェラガモの本から取った内容ですけれども、このヒールシート部のカーブがしっかりしているかどうかというのが、木型段階からの話になるとは思うんですけれど、重心がちょうど降りてくるところにこのピークがあると、前にすべって行きにくいんです。
こういうことは、いろいろな文献を見たんですけれどもあまり書いてないんですが、これは非常に大事なポイントだと思います。
最近、どうもヒールが低いから、このカーブすらもない靴を履いてくる方がいらっしゃいます。
ですから、こういったところも大事なポイントだと思います。
よくヒールものが良くないといわれますが、確かにハイヒールになれば前足部に圧は集中します。
それは間違いありません。
ではなぜ女性はあんなにいけないといわれているヒールものを履き続けるかというと、それは履いていて楽だからという側面があります。
実はハイヒールにすることによって足首の外反の状態が改善するんですね。
ヒールの方が女性の場合は、真っすぐな姿勢をとりやすい場合もあります。
現在ハイヒールに関する研究では、他の条件はそのままでヒールの高さだけを変えた研究というのは少なく、実際に調べてみると、高さ以外の構造も違ったり、サイズがあっているかについても不明なものが多いようです。
条件統一という、小学校の理科の実験でやった、条件を1個だけ変えるんだったら、他のものはそろえなくてはいけない。
これでヒールだけが悪いというのは、全然エビデンスじゃない。
全然こんな研究を信用する必要はないと思います。
そういう意味では、ヒールに関してはもう少し詳細なデータをとって、「ヒールだからいけないのではない」というふうにしていかないとどうあってもそれだけが悪いといわれても、ヒールを履いてくる人はいっぱいいるわけで、そこに何かがある。
ルイ14世、最初に履いたのは男性です。
男性がヒールを履かなくなって女性はなぜ履くのかというところを突き詰めていかないと、このヒールの問題は解決しないと思います。
ちょっと状態が良くなると、女性の方は先ずいの一番に、「ヒールを履いてもいいですか」と聞いてきます。
そういう意味では、ヒールものをもっとよく履いていくための方策を考えなければいけないと思っています。
高齢社会に突入して、高齢者の靴というのもトピックスになっているのかも知れませんけれども、高齢者という区切りが悪いんですね。
65歳を過ぎたから高齢者、85歳を越えたから超高齢者という暦年齢による分類です。
85歳を越えてもなお元気な方も、逆に60歳前なのに非常に虚弱な方もいらっしゃる。
さて、高齢者の靴といった場合、歩くことが本当に困難になった人たちをターゲットに据えるのか、あるいはこうなる前に何かしてあげることでもっと良くなる人たちのために作るのかを考える必要があります。
だから高齢者は十把一からげで、幅広の靴が良くて軽くてということではない。
むしろ、普通のフィッティングをしていくことの方が大事な場面もあります。
反対に85歳以上でかなり厳しい状況の人に普通のフィッティングをしたり、通常の歩行を望むことはちょっと危険なことだということです。
転倒予防に関する海外の医学系の文献を見ていくと、オーダーメードの対応をすればするはど効果が上がるというんです。
マスではなくて、個に対応しなさいといっているわけですから、当然、高齢者だからといって一様の対応ではいけないということになります。
ちょうどいい時間になってまとめのところにきましたが、構造上の問題で、本来、機能的だった靴の構造がゆがめられているということで、まずシャンクがない。
これは本当に由々しき問題で、これだけで全然変わるということがあります。それからヒールカウンターがない。
入っていても柔らかい。
何カ月もしないうちにぼろぼろになってしまう。
そういうカウンターではいけないと思いますが、この一つの背景になっているのが、消費者先行の問題もあると思うんです。
(続く)